骨董品や美術品の相続について

ご相続にあたって美術品や骨董品の売却や査定といったことが必要な場合がございますが、多くの方にとって日ごろ骨董品や美術品に触れる機会は少なく、いざ相続などの際にお困りになることもあるかと思います。

相続が発生した場合、亡くなった方(被相続人)の所有していた全ての財産について金額で評価額を算出した上で相続税の計算を行うことになります。
現預金であれば相続発生時の残高が評価額となり、不動産や株式については計算方法が財産評価基本通達により定められているため、一般的には税理士に評価額を算定してもらうことができます。しかし、美術品や書画・骨董品(以下、「美術品等」とします)といった希少価値のある財産については、明確な計算方法が規定されていません。
一部、展示利用していた絵画などは減価償却できるものもありますが、蔵にそのままのような骨董品や美術品は建物や機械設備といった固定資産のように減価償却も行うことができないため、取得価額を基に相続開始時点の帳簿価額を求めることもできません。

財産評価基本通達における美術品の扱い

相続財産の評価方法については財産評価基本通達で以下のように定められています。

(1) 販売業者が有するもの
棚卸資産の評価の定めによって評価する
(2) (1)以外のもの
売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価する。

(1)については、被相続人が美術商や古物商などの会社のオーナーであり、そのオーナーとして所有する美術品等を評価する際に適用されます。
しかし、このようなケースは少ないものと考えられるため、相続発生時に、美術品等の評価方法で一般的なものは(2)となります。

次に(2)の売買実例価額と精通者意見価格について説明します。
売買実例価額とは簡単に言い換えるとその美術品等を美術品専門店で売買する価格、則ち市場価格を言います。類似の美術品等が過去に美術品専門店やオークションで取引された金額を基にその財産の評価額を算出する方法です。
精通者意見価格とは美術品専門家(以下、「専門家」とします)の鑑定結果になどによって得られた評価額を言います。美術品等の多くはレプリカを除き唯一無二の存在であり、市場価格を算出しにくい傾向があります。そのため、評価額を算出する場合は精通者意見価格を求めるケースの方が多くなります。

弊社では豊富な独自のデータベースをもとに売買実例価額と精通者意見価格の双方を加味し、より正確な評価を算出できます。
これは相続時の話し合いや実際の必要換金性の面からも大いに役立ちます。

実際の美術品評価方法

実際に相続が発生した場合、美術品等を具体的にどのように評価すればよいのでしょうか。大きく以下の二通りが考えられます。

購入価格及び同等品の販売価格を自身で調べる

相続財産の中に美術品等がある場合に最初に行うことは購入時の購入価格を確認できる資料を探すことです。購入価格を証明することによって相続税評価額とすることができます。
購入価格の確認資料が見つからない場合は類似の美術品等の現在の販売価格をインターネット等で調べることも一手です。但し、美術品等については全く同一のものは存在しないと考えられることから、評価額に対する信憑性がやや弱くなります。

これらの方法では評価額算出にあたり費用が発生しないというメリットがありますが、専門家による実際の時価評価額と乖離してしまうことも多くあります。

専門家に鑑定依頼を行う

自身で評価額を算出できない、あるいは売却により現金化して納税に充当することを考える場合は、専門家に鑑定依頼を行い評価額を算出してもらうのが良いでしょう。
また、専門家によって評価額が異なるため、複数の美術品専門店に評価額を算定してもらい比較をすることが望ましいです。

但し注意点として近年、不要品の買取業者としてリサイクルショップや買取専門店が増えてきており、美術品等についても買取価格を査定してもらうことができますが、このような店舗においては、美術品等の価値を熟知していないスタッフが多く、その店舗にとって有利な安価で評価されることがしばしばあります。
相続税申告においては低い評価額の方が納税額が少なく計算されるため有利となりますが、その買取価格が経験のある専門家が評価した金額とかけ離れている場合、税務調査のおいて評価額の修正を求められ、追加納税さらには罰金としての意味合いを持つ附帯税が課せられる恐れがあります。

また、このような事象は遺産分割及び相続税申告・納税が終了した後に発生します。この税務署からの指摘により完結したと思われていた相続人同士の遺産をめぐる議論が再発する可能性もあります。
このような問題を考慮し、相続評価としても有利にかつ現金化する場合も最良の方法を、弊社の請け負いました様々なケースを参考にご提案させていただきます。

リサイクルショップや遺品整理など専門外の業者が評価した場合には、相続税申告を考慮しない安価な買取価格を算定する傾向にあり、ましてその金額のまま売却するとなると実際に現金化して評価されていたり、故人の遺志を踏まえ美術館などに寄贈や展示されるべきものたちが埋もれていってしまったりします。
そのため、被相続人が生前大切にしていた美術品等の価額を評価するためには査定経験の高い専門家が在籍している美術品専門店に依頼することが最適であると言えます。

美術品相続についての注意点

美術品等に係る相続について注意すべき個別論点を見ていきます。

価値の低い美術品

美術品には数万円のものから数百万円を超える価値のあるものまで多岐にわたります。価値の高い美術品等についてはこれまでに述べたように専門家に鑑定を依頼して評価額を求めるべきですが、数万円程度の美術品等についても鑑定を依頼した上で相続税申告をしなければならないのでしょうか。

答えはNOとなります。
価値の低い美術品等については被相続人が所有していたタンスやソファといった家財と一体にして評価することが通例となっています。おおよその取得価額を各自でイメージして「家財用具一式80万円」といったように評価した上で申告を行っても問題ありません。但し、その美術品等を含む家財について、それぞれ異なる相続人が相続をする場合には、「美術品10万円、タンス15万円、ソファ20万円・・・」といったように個別に評価額を算定する必要があります。

美術品の相続申告

相続税申告については、前述の特例を適用する場合等を除き、相続税が発生しない場合には申告を行う必要はありません。
現在、1年間の死亡者に対する相続税が課税される人の割合はおよそ9%弱であり、その中で美術品等に対して課税される人の割合は1%以下であると想定されます。

このように割合で見ると、美術品等に対する納税者はわずかですが、逆を言えば、税務署はその少数派となる美術品等の申告があった場合には念入りに調べる傾向にあるようです。
価値の高い美術品等が相続財産としてある場合には、美術品専門店において鑑定を行い適切な申告を行うべきです。

精通者とは

精通者意見価格における精通者とは古物商、鑑定士、専門家など美術品等に対して詳しいものであればよく、税務署側から特に指定はありません。
だからこそ、慎重な選択が必要とも言えます。

美術品等の評価額について

相続税法第22条においては、相続財産は相続開始時点の時価で評価する旨が定められています。そのため、美術品等についても相続開始時点における時価を精通者の意見を参酌し決定しなければなりません。

美術品等が本物であるか偽物であるかの真贋鑑定については税務署側で行うことはありません。
税務署が美術品等の相続税申告があった際に、その美術品等に対して調査を行うケースとしては、被相続人の経歴や収入、趣味などからそのような美術品等を持っていることが適当ではないと判断した場合です。この場合は税務署側が独自で鑑定依頼を行った上で求めた評価額と相続人から申告された評価額を比較することがあります。

また、美術品等については美術年鑑等に美術品等の大きさの単位である「号」当たりの金額が記載されていますが、このような金額については相続財産の評価においてはあまり参考にはなりません。年鑑等に記載されている価格はその作者が最も活躍していた時期に付された価格であり、かつ、その美術品等の保存状態が良い場合の価格となります。
一方、精通者意見価格とは専門家が実際に売買取引を行った場合を想定して評価するため年鑑等に記載されている価格に比べて低い金額で評価されます。これが正に相続税法第22条で定める時価であると言えます。

美術品等の物納

相続財産の大部分が金銭以外の不動産や有価証券、動産であるために相続税の金銭一括納付が困難である場合には、相続税を複数年に分割して納付を行う延納を選択することができます。この延納を選択しても相続税を納付することが困難であると認められる場合には、不動産や有価証券等といった金銭以外の物によって納付を行う物納を選択することができます。

では、美術品等は物納財産の対象とすることができるのでしょうか。一般的な美術品等については相続税法上動産に分類され、物納対象となる財産の順位の中では最下位となります。
そのため、美術品等を物納に充てることは難しいと言えます。
但し、例外的に国宝として指定されている登録美術品については物納財産順位の中でも最上位に該当するため、最優先で物納に充てることができます。この場合、税務署側が評価額を算定することとなります。

このように美術館のオーナーが所有する国宝については特例的な取り扱いがありますが、通常は美術品等の物納については期待しない方がよく、相続税の納税については原則金銭一括納付であることを覚えておいてください。

適切な美術品相続のために

美術品等の評価は相続税の専門家である税理士においても適切に評価することができず、税理士が評価する場合には家財一式に含めてしまう場合がほとんどです。価値の高い美術品等の場合、この方法では正しい評価とは言えず、申告後に税務署側が鑑定を行い、修正されるケースが少なくありません。
美術品等を専門家に依頼して算出した評価額をもって相続税申告をすることは適正な申告・納税となることはもちろんですが、被相続人が生前大切にしていた美術品等を適切な財産価値のある状態で後世に引き継ぐことにつながります。

また、相続時には不動産や有価証券などそのまま引き継ぎを行うとなると莫大な現金が必要となり、結果として不動産を売却して相続税相当の資金に充てる場合がほとんどです。
しかし不動産だけでなく動産である美術品や骨董品を正確な時価評価を知った上で事前に効率的に現金化することで相続税の足しにするだけでなく、結果として不動産売却しなくても良いこともあります。また不動産を売却する場合でも残置物整理や遺品整理など整理費用に充てることも可能です。

骨董品や美術品は分野が非常に多岐にわたりますので、相続においてもそれぞれにあった市場や方法で換金する、もしくはその市場独特の方法で時価評価をそれぞれに算出する必要があります。
例えば掛け軸一つにしても売却地方や売却方法、真贋を含めどのように評価するかで価格に大きな開きがあります。真贋をはっきりさせることで売却しない場合でも骨董品の評価額を知っておくことは今後の備えにもなると思います。

弊社は専門の税理士とも連結しており、この他さまざまなケースに対応致します。
また、士業の方からの美術品評価査定依頼も承っておりますので、まずはお気軽にご相談ください。